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医療通訳者の現状とこれから

日本語の通じない外国人を相手に医療の現場で通訳を行う「医療通訳者」。2020年の東京オリンピックに備えて、日本では外国人に対する医療体制の強化が急ピッチで進められていますが、訪日外国人の数に対して十分な数の医療通訳者を確保できていないのが現状です。今後ますますグローバル化が進む日本において、医療通訳者にはどんな役割が期待されていくのでしょうか。

医療通訳者の現状

日本を訪れる外国人観光客の数は年々増加しており、日本政府観光局によると、2018年の統計では、訪日外国人観光客数は過去最多の 3,119万人に達しました。日本を訪れる外国人が多くなるほど、急病やケガなどで医療機関を訪ねる外国人も増加すると見られていますが、医療スタッフと外国人患者の意思疎通をサポートする医療通訳者は、ごくわずかの病院にしか配属されていないのが現状です。

日本語を理解できない外国人に的確な医療サービスを提供するには、外国語の能力はもちろん、診断結果を正確に訳する医療言語の知識や、相手の宗教や文化の違いに関する理解が必要です。しかし、その専門的な知識・スキルを備える人材を育成するには、コストと時間がかかることは想像に難くありません。

医療通訳者がいない病院では、患者の知人や家族、ボランティアの通訳者などを介して意思の疎通が図られてきました。しかし、専門的な知識・スキルを持たない人材が通訳を行うと患者に正確な情報が伝わらず、後々トラブルにつながる恐れもあります。訪日外国人が増えるなかで安定的な医療サービスを提供するためには、医療通訳を専門的に学んだ経験のある通訳をより多く確保することが必要不可欠といえるでしょう。

今後ますます求められる医療通訳

医療通訳者の拡充のために、2014年9月には厚生労働省が医療通訳の育成に必要な研修や指導の基準を「医療通訳育成カリキュラム基準」としてまとめられると同時に、医療通訳を重点的に配置する拠点病院の指定を行う方針が示されました。医療通訳者を配置した拠点病院の数は2020年までに30カ所にまで増やされる見込みで、経験豊富な医療通訳者はこれからも価値を高めていくと見られています。

今後、日本では東京オリンピックや、大阪万博などを機に、各国から旅行者が一層増えることが予測されています。しかし、外国人の増加は旅行客に限った話ではありません。法務省の発表によると2018年末現在での在留外国人数は273万人にのぼり、在留外国人が日本の総人口の約2%を超えていることが明らかになりました。医療通訳者は国際的なイベントが終わった後も永続的に求められる仕事となるでしょう。

また、2018年の統計で訪日外国人旅行者数の国別分布を見ると、韓国、中国、台湾、香港の東アジア4カ国だけで全体の70%を占めることがわかります。そのため、医療通訳者としての仕事は、英語のみならず中国語や韓国語にも広がりを見せていますが、一方で医療を求める外国人への公平さという視点では、訪日旅行者数の多寡を問わず、希少言語の対応策も重点的に考えていく必要がありそうです。

これからの医療現場には医療通訳者が欠かせな

在日外国人、外国人観光客が増加する日本において、外国人との意思疎通を円滑にする医療通訳者の存在はますます求められていくでしょう。医療現場でのコミュニケーションは命に関わる判断と隣り合わせのため、医療通訳者として働くなら、医療の専門用語を正確に訳す語学力・通訳技術力・コミュニケーション能力を鍛えておきたいものです。

また、外国人のなかには、日本人の常識では計れない価値観や文化を持つ人がいることも忘れてはなりません。医療現場ではデリケートな話題も少なくありませんが、診察結果の伝え方に注意を払ったり、相手の文化にはない考え方を補足したりする細やかな気配りも必要になるでしょう。

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