INFORMATION医療通訳情報

医療通訳者と共に成長が求められる医療従事者―医療通訳における医療現場の課題

外国人観光客や外国人在留者の増加によって、医療機関を受診する外国人も急増しています。医療通訳者の配置や電話医療通訳サービスを利用している医療機関もありますが、通訳を活用するためには、医療従事者側も医療通訳の役割や重要性を認識していくことが重要です。

求められる医療通訳者の負荷分散

医療通訳には、言語的な通訳能力だけでなく、外国人患者に適切な説明ができるよう基本的な医学的知識も求められます。具体的に言うと、医療、薬に関する専門用語及び日本の医療制度の知識等が必要です。また、日々進化する先端医療に関する専門用語についても定期的に習得していかなければなりません。このように、医療通訳者にかかる負荷はかなり大きなものとなります。

そのため、医療従事者は医療通訳の役割や重要性を認識し、通訳を行いやすい環境を整えることが重要です。例えば、医療通訳者が理解しやすいよう、話すスピードをゆっくりにする、難しい医療用語は簡単な言い回しにするといった工夫などが挙げられます。

外国人患者はさまざまな医療従事者と接する機会があります。医師だけでなく、医療機関全体で医療通訳への理解が進めば、より外国人患者に適切な対応が行えますし、医療通訳者にかかる負荷も分散することが可能です。

外国人患者に対する国、地方自治体や医師会の取り組み

厚生労働省は、日本語を母国語としない外国人患者の受け入れについて「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」を作成・公表しています。また、日本医師会でも、外国人患者の対応について関係各所と情報交換や対策協議を実施中です。各医師会でも、外国人患者受入れの環境整備のため、次のような施策が行われています。

問診表やマニュアルなど診療ツールの公開

外国人患者用の母国語で書かれた問診表やマニュアルは、外国人患者の診療をスムーズに進めるために有効です。一例として千葉市医師会では、英語・中国語・韓国語・スペイン語について各言語での問診票や検査、診断、服薬の説明で利用できる診療ツールを公開しています。また、群馬県医師会では、全国に先がけて全12カ国語の問診、説明、入院、会計に必要な対応文例をまとめた「医療機関用外国人ハンドブック」を作成しています。英語、スペイン語、ポルトガル語、タガログ語については医師会のWebサイトでも公開中です。

電話通訳サービスの利用推進

2017年、石川県における初の外国人向け電話医療通訳の実証実験を皮切りに、医師会主導の電話医療通訳の導入や利用推進が行われています。東京都では、2018~2019年に24時間365日利用可能な電話医療通訳について、医療機関の費用負担なしに利用できる利用促進事業が実施されました。
また、厚生労働省は2017年に補助金事業『医療機関における外国人患者受入れ環境整備事業』として電話医療通訳サービス利用促進事業なども実施しています。

医療現場の異文化理解

医療現場では、外国人の持つ異なる文化や宗教についても理解や配慮が必要です。医師や医療通訳者はもちろん、医療機関で外国人患者と接する看護師、薬剤師、医療事務など医療従事者全てに求められます。医師との意思疎通だけでなく、受付や検査、処置、会計、服薬指導の際にもコミュニケーションが必要だからです。

そのため、すでに一定レベルの医療知識を持つ医療従事者が医療通訳や外国人患者の対応について学ぶことは、外国人医療において大変有用です。外国人患者対応スキルを上げたい医療従事者には、医療通訳の知識は必須となっていくでしょう。

一方、これまで訪日外国人向けのガイドなど通訳の現場で活躍してきた通訳者は、外国人の持つ文化的、宗教的背景については理解があるでしょう。このような人材が医療に関する知識を身につけ、医療通訳者として活躍することが期待できます。

まとめ

外国人患者の円滑な受入れに必要なことは、言語的な壁を打破するだけではなく、外国人を取り巻く異なる文化背景を理解した上での対応が必要です。そのためには専門の医療通訳者の配置はもちろん、日常の診療の場において医療通訳の役割について理解することが欠かせません。外国人患者に対してよりよい医療を提供するには、医療従事者が医療通訳について学ぶことも効果的です。

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