INFORMATION医療通訳情報

気になる医療通訳者の将来性は

医療機関での通訳は、かつては外国人支援の一環として各種非営利団体を中心に行われていました。しかし、近年の外国人観光客や在留外国人の増加により、専門職としての医療通訳者の重要性が認識されるようになってきています。今後、医療通訳者を取り巻く環境はどのように変化していくでしょうか。医療通訳者の将来性について考察します。

医療通訳者のニーズは高まっている

増加する外国人患者が言葉の壁が無く適切な医療を受けられるために、医療通訳者のニーズが年々高まっています。外国人患者の増加には以下のような背景があります。

外国人労働者の受け入れ増加

日本では、数度にわたる入管法の改正により外国人の在留資格の改正が重なり、留学や技能実習を目的に在留する外国人が増加の一途を辿ってきました。最近では2019年4月に新たに「特定技能」について在留資格が認められたため、今後さらに外国人労働者の受け入れ数が増加すると見込まれています。

医療インバウンド推進

日本の高度な医療を求めて訪日する外国人を受け入れる「医療インバウンド」は、医療における国際貢献の一環です。さらに、より高度な医療サービスの提供や日本医療のアウトバウンドをもたらし、ひいては日本の医療の発展に繋がりると言えます。

中でも、医療と観光の両方を目的として外国に渡航することを医療ツーリズムと言います。医療ツーリズムは一般の観光よりも滞在期間が長くなることや同伴者の存在から旅行金額が高額になるため、受け入れ側ではより多くの外貨が獲得できるというメリットがあります。

そのため、経済産業省を中心に医療インバウンド推進に向け、2011年の医療滞在ビザの発給解禁をはじめ、外国人患者受入体制の強化が進められています。このような施策から、今後もさらに医療ツーリズムは増加し、訪日外国人の受入れが可能な医療機関数も増加していくことが見込まれます。

外国人観光客の増加

近年、アジア諸国を中心に観光目的で訪日する外国人が急増しています。日本政府観光局によると2018年には、訪日旅行客数が3,000万人を突破しており、日本滞在中に病気やケガで医療機関を訪れる機会も増えています。政府は2020年に4,000万人の受け入れを目指しているため、さらに訪日旅行客の医療機関受診は増加することが考えられます。

一方で課題も・・・

医療通訳者へのニーズは高まる一方、課題も数多くあります。

医療通訳者へのニーズは高まる一方、課題も数多くあります。

医療通訳者には、医療用語や医療制度の知識をはじめ、高度な通訳技術を求められるにもかかわらず、公的な資格制度はありません。そのため、医療通訳者のスキルには差がありますし、専門職としての地位が確立しにくい環境です。厚生労働省は医療通訳者の育成のため「医療通訳育成カリキュラム基準」を定め、外国人患者の受け入れ体制整備を進めていますが、医療機関や医療通訳者からは、公的な認定制度の創設が待たれています。

医療通訳費用の負担先が不透明

医療通訳の報酬は医療保険制度の対象外のため、医療機関が負担するのか、通訳利用者が負担するのか、あるいは自治体が負担するのかという問題があります。 外国人患者の多い地域の医療機関では、専門職として医療通訳者を雇用している場合もありますが、一般的ではありません。通訳が必要な場合にNPOなどの非営利団体が派遣するボランティアを頼っているのが現状です。医療通訳者側からは、通訳報酬が他の通訳と比べて低いのではないかという声も少なくありません。

通訳可能な言語に偏りがある

現在の医療通訳者は英語・中国語が中心です。言語によっては医療通訳者の確保が難しく、英語や中国語以外の母国語の場合、医療通訳を受けられない外国人患者も見られます。医療通訳が利用できるよう、医療通訳者の育成に加えて、ITの活用といった代替手段の想定も必要です。

まとめ

日本語を母国語としない外国人患者が日本で医療サービスを受けるにあたり、言葉や文化を仲介してくれる医療通訳者は欠かせない重要な存在です。訪日外国人の増加により医療通訳者のニーズは増加しており、国も医療通訳拠点病院の選定や医療通訳認証制度の実用化に向けて準備を進めています。ニーズの高まりとあわせて行政の体制整備も進んでいることから、医療通訳者の将来性は今後期待できると考えてよいでしょう。

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